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横浜地方裁判所川崎支部 昭和54年(ヨ)9号 判決

債権者

高橋正男

右債権者訴訟代理人弁護士

鵜飼良昭

宇野峰雪

柿内義明

野村和造

債務者

株式会社生野製作所

右代表者代表取締役

堀之内斉

右債務者訴訟代理人弁護士

岡昭吉

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  債権者

「1債権者が債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。2債務者は債権者に対し、昭和五四年一月以降毎月末日限り本案判決確定まで金一〇万四八八〇円を仮に支払え。」との判決

二  債務者

主文第一項と同旨の判決

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  債務者(以下、会社という。)は各種精密機械の製造及び販売等を業務とする株式会社であり、債権者は昭和五二年一〇月三日会社に入社した従業員である。

2  しかるに、会社は債権者を昭和五四年一月解雇したと称して債権者を従業員として扱わない。

3  債権者には、毎月末に前月二一日から当月二〇日までの分の賃金が支払われることになっており、昭和五三年一〇月から同年一二月まで三か月間の債権者の月平均賃金額は一〇万四八八〇円であった。

4  債権者は賃金のみによって生活を維持する労働者であるが、会社に賃金の支給を断たれて日々の生活すら思うにまかせない状態に陥っている。

5  よって、債権者の求める裁判欄記載の裁判を求める。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1の事実中、会社が製造及び販売等する製品が各種精密機械であることは否認し、その余の事実は認める。会社の主力製品は電子パーツで、精密機械は副次的なものである。

2  同2及び3の各事実は認める。

3  同4の事実は否認する。

債権者は自然食品店を経営しており、その店舗は借家であるが、配送用の自動車を有し、かつ従業員を一名使用している。加えて、時折熔接関連業務の委託を受けて収入を得ており、また、妻の収入も期待できる。

4  同5は争う。

三  抗弁

会社は昭和五四年一月五日債権者に対し解雇の意思表示をし、その際未払分の賃金と解雇予告手当三〇日分を提供し、受領拒絶により同日供託した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、債権者が昭和五四年一月五日債権者に解雇の意思表示をしたことは認め、その際解雇までの賃金と解雇予告手当三〇日分を提供し、受領拒絶により同日供託したことは明らかに争わない。

五  再抗弁

しかし、会社の就業規則二〇条及び八八条には解雇事由が定められており、会社が従業員を解雇できるのは、右事由に該当する事実がある場合に限られている。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は認める。

七  再々抗弁

1  諭旨解雇

(一) 経歴詐称

(1) 就業規則八八条四号は従業員が経歴を偽りその他不正の手段を用いて採用されたことを懲戒解雇事由として定めている。

(2) 債権者には、右懲戒解雇事由に該当する事実がある。即ち、

(ⅰ)〈1〉 昭和五二年九月一九日の採用面接の際、債権者は履歴書に学歴、職歴として次のとおり記載して会社に提出した。

昭和四〇年四月 宮古第一中学校卒業

同年五月 鶴見工業株式会社入社

昭和四九年一二月 同社退社

昭和五〇年一月 日興酸素株式会社入社

昭和五二年八月 同社退社

〈2〉 また、債権者は右面接において、鶴見工業株式会社(以下、鶴見工業という。)及び日興酸素株式会社(以下、日興酸素という。)在籍当時一貫して板金熔接作業に従事していた旨述べ、その後、機械課係長高橋英司が技術評価のため債権者を現場に案内して、採用後担当すべき板金等の職務内容、技術水準を説明のうえ大丈夫か確かめたところ、債権者は十分自信がある旨発言した。

〈3〉 そこで、会社は債権者が板金工として一二年余の経験を有するベテランであり、しかも業界で板金技術についてトップレベルの大手専業メーカーである鶴見工業で約一〇年の長期間板金工として腕を振るってきたのであるから、人物、技術とも十分な適格性を有するものと判断して昭和五二年一〇月三日債権者を採用したのである。

(ⅱ) しかしながら、債権者が会社に申告した右経歴には、次の各点で詐称があった。

〈1〉 鶴見工業には、履歴書記載の期間は勿論、その前後を通じても在籍の事実はなかった。

〈2〉 日興酸素在籍期間は、昭和五一年七月二六日から昭和五二年八月二五日までであり、昭和五〇年一月六日から昭和五一年六月一二日までの約一年半は宮古港湾株式会社(以下、宮古港湾という。)に臨時作業員として勤務していた。

〈3〉 そして、その間の職種も、宮古港湾では沿岸荷役作業であり、日興酸素では運転手であった。

(3) 右経歴詐称は以下のとおり背信性が著しく、かつ労働力の適正な配置を誤まらせて企業秩序を乱すものである。

(ⅰ) 会社は、昭和五一年以降、売上の重要部分を占める東芝からの発注が激減して、赤字が続いたため、その対策として自家商品のハロゲン式ガス洩れ試験機(リークテスター)製造に機械課の主力を注ぐことにし、一流ベテラン工を採用することにして同年一一月から翌五二年二月にかけてプレナー工、電気配線電気設計工、仕上組立工、旋盤工を採用したが、板金工については、リークテスター製造の体制固めの他、現地据付試運転の際に必要な顧客工場の安全基準等についての理解力や順応性を備えた多面的な教育訓練を経た人材が望まれ、中位以上の会社で経験を積んだ一〇年以上のべテラン工を求めていた。

(ⅱ) ところが債権者の熔接関連作業の技術には、図面の読み取り方や熔接、熔断の仕方等の基本的素養が欠落しており、その技術水準は昭和五三年七月時点で経験二、三年程度のものであった。債権者は、採用されて機械課に配属され、四日後の昭和五二年一〇月七日から一旦第一製造課に応援に出され、翌五三年正月休み明けに機械課に復帰して板金作業を担当し始めたが、右技術不足のため、同年二月末ころから後工程からの苦情が相次ぎ出した他、納入先のクレームによる納品の返品もあり、不利益な外注依存や債権者の技術指導のための係員派遣をやむなくされ、結局債権者には単純で簡単な加工のみ担当させるようになった。

(二) 会社に損害を与え、または会社の信用を傷付けたこと

(1) 就業規則八八条九号は、従業員が故意または過失により会社に損害を与え、または会社の信用を傷付けたことを懲戒事由として定める。

(2) 債権者は、前記経歴詐称による入社により、前記(一)(3)(ⅱ)のような事態を惹き起こして、会社に計り知れない有形無形の損害を与え、また会社の信用を傷付けるとともに、後記のとおり経験加算給を少なくとも月額三〇〇〇円ずつ不正に取得して会社に損害を与えた。即ち、

(ⅰ) 会社では、中途採用の技能者を採用する場合、通算同一職種従事期間から二年を見習い期間として差し引き、端数月は六か月未満切り捨て、七か月以上は切上げとして経験年数一年につき月額一〇〇〇円の割合による経験加算を慣行として行ってきており、これが制度化されていた。

(ⅱ) 債権者は、前記(一)(2)(ⅰ)の申告により、鶴見工業九年七か月及び日興酸素二年七か月合計一二年二か月を板金作業に従事したものとして月額一万円の経験加算給を受給してきた。

(ⅲ) しかしながら、前記(一)(2)(ⅱ)のとおり右申告は虚偽であり、仮に鶴見工業在籍と申告した期間、その下請企業の一員として板金作業には従事していたとしても、少なくとも日興酸素で板金作業に従事していたとされる二年七か月を内規により切り上げ三年として加算されてきた月額三〇〇〇円については不正取得してきたものである。

(三) そこで、会社は債権者を解雇することとし、なお自主退職の説得を重ねたが拒否されたため、就業規則八八条四号、九号に該当するものとして同条但書(情状により減給、出勤停止又は諭旨解雇とすることがある。)、八五条四号(諭旨解雇は、諭旨によって退職させる。)の規定により諭旨解雇に処した。

2  予備的解雇

(一) 仮に、前記1の主張が認められないとしても、債権者には次のとおり就業規則二〇条一項所定の通常解雇事由があり、前記三の解雇の意思表示は通常解雇としての効力を生じている。

(1)(ⅰ) 同項五号は会社の都合上、やむを得ない事由があることを解雇事由として定めている。

(ⅱ) 債権者は、経歴詐称による入社、経験加算給の不正受給により、会社との信頼関係を破り、会社に雇用継続の意思を喪失させた。

(2)(ⅰ) 同項二号は仕事の能力もしくは勤務成績が著しく劣り、または職務に怠慢なことを解雇事由として定める。

(ⅱ) 前記1(一)(3)(ⅱ)記載のとおり、債権者は熔接関連作業の技量が不足しており、その勤務成績は不良である。

(3)(ⅰ) 同項三号は会社業務の運営を妨げ、またはこれに故なく協力しないことを解雇事由として定めている。

(ⅱ) 前記1(一)(3)(ⅱ)の作業内容の不良から、後加工担当者からの苦情が相次ぎ、組長、職長あるいは係長は、再三にわたり債権者に対し技術上の問題がある事実を指摘し、是正を求めるとともに、後加工担当者と常に連絡協調をはかりつつ作業を行うべき旨指示したが、債権者に是正の跡はみられなかった。のみならず、債権者は、加工不良の現品を示されても自己の非を否認し、他人に責任を押しつけ、あるいは言い逃れをし、反抗的態度をとることに終始した。

(二) 仮に、前記三の解雇の意思表示の通常解雇への転換が認められないとしても、会社は本件保全手続における昭和五八年二月三日付準備書面をもって債権者に対し通常解雇の意思表示をした。

その解雇理由及び就業規則適用条項は、前記(一)記載と同じである。

八  再々抗弁に対する認否等

1  再々抗弁1(一)(1)の事実は認める。

2  同1(一)(2)について

(一) (ⅰ)について

(1) 〈1〉の事実は認める。

(2) 〈2〉の事実は否認する。

鶴見工業においては製鑵工であり、日興酸素においては荷役作業及び運転手をしていた旨申告した。

なお、製鑵作業とは、板金作業の一部ではなく、立屋(ビル)、橋梁、タンク等大物の鉄板加工であって、多くの場合高度の精密さ(誤差一mm前後)が要求されるものであり、板金作業は機械のカバーやタフト等のどちらかといえば小物の薄い鉄板の加工であって、製鑵作業ほどの経験や技術は必要とされない。

また、面接後高橋係長が現場を案内したことはあったが、技術水準の説明や債権者に大丈夫か確かめたことなどは全くなく、ただ一通り現場を見学させただけであった。

(3) 〈3〉の事実は否認する。

会社は債権者が板金作業に従事したことがないことを十分知りながら、特にそれを問題とすることなく採用したものである。

(二) (ⅱ)について

(1) 〈1〉の事実は否認する。

仮に履歴書記載の鶴見工業在籍期間の一部または全部につき、形式上は在籍の事実がなかったとしても、その期間債権者は鶴見工業の下請である有限会社たみや工業所の従業員として鶴見工業と実質的な使用従属関係にあったのであり、約一〇年間鶴見工業の指揮命令の下でその製鑵業務に従事してきたという実体に偽りはないし、その間自ら鶴見工業の従業員であると信じ、かつそう信じるについて相当な事情もあったのだから、経歴詐称というに該らない。

(2) 〈2〉の事実は認める。

宮古港湾の職歴を記載しなかったのは、長期的に勤務できる職場を探すまでの一時的な生計維持の必要から従事していたにすぎないこと及び日雇という形態で定職とも言えないことから、敢えて職歴として記載せず、会社の募集する板金工という職種と何ら関連性を有しない職種として一括して日興酸素在籍期間としたものである。

(3) 〈3〉の事実は認めるが、前述のとおり日興酸素在籍期間中荷役作業及び運転手をしていた旨申告したのであって詐称はない。

3  同1(一)(3)について

(一) 冒頭の主張は争う。

前記のとおり、債権者の経歴詐称は宮古港湾在籍の期間を秘匿し、日興酸素在籍期間に含めて申告した点にのみ存するが、その事情は前記2(二)(2)に述べたとおりであって、右詐称は会社の採用基準を誤らせたりその経営秩序を阻害するものではなく、また、債権者においてもことさら悪意をもって詐称したものでもなく、右詐称の程度は甚だ軽微である。

仮に鶴見工業在籍の点も詐称に該るとしても、前記2(二)(1)に述べた事情に照らせばその程度は甚だ軽微であり、また背信性もない。

(二) (ⅰ)の事実中、リークテスターの現地据付試運転の際必要な顧客の安全基準等についての理解力や順応性を備えた、多面的な教育訓練を経た人材が望まれたとの点は否認し、その余は不知。

会社では顧客工場での現地据付試運転の場合、従来から殆ど債権者ら作業員の他に機械課の職制が現場に赴き、顧客との接衝等を行っていた。

(三) (ⅱ)の事実中債権者が採用後第一製造課に応援に出され(ただし、昭和五二年一一月下旬ころである。)、翌五三年の正月休み明けから原職に戻ったことは認めるが、その余は否認する。

債権者は、製鑵業界でもその技術水準がトップクラスに位置するとされる鶴見工業において、約一〇年間、一貫して製鑵業務に従事し、しかもその中で棒心たる地位につき十分な技能を身につけ、社会的に立派に通用する一人前の製鑵職人となっており、債務者主張のような不良はない。

4  同1(二)のうち、(1)は認め、(2)は否認する。

労働基準法第八九条は「賃金の決定、計算及び支払の方法」等について就業規則に定めて労働基準監督署に届け出ることを使用者に義務付けているところ、本件経験加算給は会社の就業規則類には何ら定めがなく、また債権者は面接の際及びそれ以降も会社から経験加算給の存在について説明を受けたことはないし、賃金明細書等にもかかる記載はなく、会社の右主張は架空のものとしかいいようがない。

仮に、会社に経験加算給なるものがあったとしても、右事情の下では、債権者が賃金の内に経験加算給が含まれているなど知る由もない。

5  同1(三)は認める。

6  同2について

(一) 一般に通常解雇と懲戒解雇ないし諭旨解雇は、その根拠・内容・効果・手続等の面で截然と区別されており、両者の間には本質的差異があるが、会社においても、その就業規則は右一般法理を反映して両者を区別して規定しており、このような規定の下で、懲戒解雇ないし諭旨解雇の対象となるような事由を、性格を異にする通常解雇の対象とすることは許されず、債務者の諭旨解雇の意思表示を通常解雇の意思表示に転換する旨の主張は失当である。

(二) (一)(1)ないし(3)の各(ⅰ)はいずれも認めるが、(ⅱ)は否認する。

九  再々々抗弁

(一)  会社は、債権者が会社の実施しようとする休日削減を阻止しようと活動するグループに属し、また、右問題を労働基準監督署に申告したために解雇されたグループ員宮越節子の解雇撤回要求の活動に支援協力したことを嫌悪して債権者を職場外に放逐するため本件解雇をなしたものである。すなわち、債権者が入社する前である昭和五一年八月三〇日当時の大橋総務部長より九月と一〇月の土曜日、二日間を出勤日とするとの発表が一方的に行なわれた。

この発表は就業規則で土曜日が休日になっているのに右二日間についてこれを出勤日とするというものであったにもかかわらず組合執行部は休日削減問題について組合員の権利を守ろうとはせず会社の経営困難が理由である旨説明し、その後九月二三日開かれた組合大会でも会社の経営を建て直すために休日削減に協力しようと、組合員を説得しようとした。かくするうち、会社は一一月一九日と一二月の第三土曜日を出勤日にする旨の告令を貼り出した。

ところで従業員の一人である宮崎節子は、前記のような執行部の態度に疑問を感じ、本当の組合のあり方等について学習していくためのグループづくりの必要性を考え、同僚の市川能利子、権平松男らに呼びかけてグループを結成し、債権者も右グループに参加した。

ところで休日削減問題は、会社の意を受けた執行部の執拗な働きかけの結果、会社の告令による一一月一九日の休日削減が強行されそうな形跡になってきたのでグループ内で検討し、会社の行為が土曜日休日を定めた就業規則に抵触することから、直ちに労基署へ申告することを決めた。そして具体的には宮崎と西浦の二人が、一一月一二日、川崎南労働基準監督署に申告をした。

監督署は直ちに会社へ立入調査を行なったため、問題の日一九日の二日前に会社の指示により昼休みの時間集められ、大橋部長が「だれかが労基署に訴えたことにより労基署から立入調査があった」「土曜日の出勤は撤回する」と発表した。

このように宮崎をはじめとするグループの活動により、遂に会社組合の一体となった休日の一方的削減は撤回させることができたが、当然のことながらこれに対する会社の怒りは大きく、直ちに労基署へ申告した者の調査がなされ、その結果目をつけられた宮崎は突如昭和五二年一一月二一日付で第三部品課から設備技術課へ配転命令を受けた。設備技術課は、全員が男子の技術設計員で構成され、会社ではエリートの集まる部署だと言われており、これによって従来のように女性労働者と接触することは殆ど不可能になった。

右配転は何ら合理的な業務上の理由もなく、結局は会社の休日削減計画を阻止した宮崎に対する悪質なる報復措置及び宮崎を女子組合員から引き離しその影響力を排除しようとした結果であることは明らかである。

年があけて昭和五三年に入るや、会社は生野カレンダーを発表し、その中で三たび土曜日休日削減の意図を明確にした。即ち右カレンダーによれば七月、九月、一二月の第五土曜日を出勤日にする旨、明示されていたのである。グループでは、休日削減問題は第一回の該当日である七月まで様子をみるとして、その間職場内の労働者同志が互に仲間として交流しあえるように、サークル活動を行っていこうということになった。そのうちに問題の第一回目の出勤日である七月二九日が近づいてきたが、組合へ働きかけをしても全くらちがあかなかったため、グループ内で討論した結果、今度は宮崎一人が労基署へ申告することとなった。

そこで宮崎は七月二七日午後三時頃監督署に赴き、休日削減問題、年次有給休暇問題等について申告をなした。宮崎は自らの氏名が記載されている年休の用紙を監督署に提出し、監督官が右用紙を会社に証拠として提示することに承諾した。七月二九日の日には、宮崎や債権者も抗議の意味をこめ会社を休んだ。監督署の調査は、八月二日、七日と行なわれたが、これと符節を合わせるかのように宮崎に対する攻撃が開始され、仕事を全く与えないようになり、八月一〇日、二四日には大橋部長から宮崎の申告について難詰され、退職を勧告されたので、宮崎は再び八月二九日労基法一〇四条二項違反で労基署に申告したところ、九月五日になって突如九月二一日付で解雇する旨の通告を受けた。宮崎は解雇通告後も、毎朝会社に出かけ、働かせるように要求を続けた。債権者は宮崎の解雇撤回闘争を支援したが、その結果債務者の債権者に対する監視と嫌がらせが厳しくなり、本件解雇に至った。

このように、本件解雇は、宮崎・債権者らのグループが会社による一方的休日削減という労働者の権利侵害に反対し、職場委員になり組合内で活発に発言し反対の意見を組織し、さらには労働基準監督署に申告し、又職場内の環境改善のためにサークル活動を積極的に展開してきたことに対する会社の報復措置であった。最も会社に目につき主謀格とみなされた宮崎が第一番に解雇され、さらに宮崎の就労闘争解雇撤回を求める闘いを支援し、職場内で活発な活動をしようとする債権者に対して、前述したような様々な嫌がらせ、職場八分が加えられ、退職強要が続けられ、遂に債権者がこれに応じなかったために解雇に至ったのである。

(二)(1)  右グループの行為は労働組合の正当な行為であって、本件解雇は不当労働行為である。

(2)  右グループが労働組合に該らないとしても、右行為は労働者の労働条件、地位の向上を図る目的でなされたものであって、団体行動権の行使であるから、これを嫌悪してなされた本件解雇は公序良俗に反する。

(3)  そうでないとしても、本件解雇は債権者の正当な行為を嫌悪してなされたものであって、解雇権の濫用である。

一〇  再々々抗弁に対する認否

(一)および(二)の(1)ないし(3)は争う。昭和五二年秋に提案した土曜休日の一部削減については、債務者会社は中小企業では稀な完全週休二日制を採用していたところ、業績不振にあえぎ、年間二日の土曜日を出勤日とするよう労組と協議し、その同意を得たので実施しようとした。しかし就業規則改正手続をふんでいなかったため、同年は実施を見合わせ、改めて労組と協定したうえ、就業規則改正手続をふんで翌年実施した。債権者主張のグループなるものの存在も本件訴訟まで知らなかった。また、債権者は、解雇された宮崎節子の協力者という面で報復を受けた旨主張するが、債権者が宮崎に協力したかどうか知らない。

本件解雇を無効ならしめるような事情は全くない。

第三疎明関係(略)

理由

一  債務者会社と債権者の入社等

(人証略)によれば、債務者会社(以下単に「債務者」または「会社」ということがある。)は電子部品の製造販売及び精密機械の設計製作販売を業務とする株式会社であることが認められ、債権者が昭和五二年一〇月三日会社に入社した従業員であることおよび賃金の支払方法、賃金の額が債権者主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  解雇の意思表示

債務者会社は昭和五四年一月五日債権者に対し、解雇の意思表示をし、その際、法所定の解雇予告手当を提供し、受領拒絶により同日供託したことも当事者間に争いがない。

三  解雇の意思表示の効力

1  再抗弁事実(解雇制限規定の存在)は当事者間に争いがない。

2  解雇事由(経歴詐称)について

債務者は、債権者には、従業員が経歴を偽りその他不正の手段を用いて採用されたことを懲戒解雇事由と定めている就業規則八八条四号に該当する事実があると主張する。

まず就業規則八八条四号に債務者主張のような定めがあることについては当事者間に争いがない。

A  経歴詐称の事実の有無

(一) 入社時における履歴書の記載等

債権者が、昭和五二年九月一九日、採用面接の際、学歴、職歴として「昭和四〇年四月宮古第一中学校卒業、同年五月鶴見工業入社、昭和四九年一二月同社退社、昭和五〇年一月日興酸素入社、昭和五二年八月同社退社」と記載した履歴書を会社に提出したことは当事者間に争いがない。

(証拠略)によれば、債権者は、公共職業安定所の紹介で会社の機械工の求人に応募したものであるところ、債権者に対する面接は会社総務部総務課課員の北原明が担当し、債権者の提出した履歴書に職種の記載がなかったためこれを尋ねると、債権者は一貫して熔接作業に従事してきた旨答え、途中から右面接に会社機械課係長高橋英司が同席し、重ねて鶴見工業及び日興酸素における債権者の仕事の内容を尋ねると、債権者は鶴見工業では主に重量物の熔接切断の製鑵作業を日興酸素では熔接を行っていた旨答え、その後、右高橋英司が技術評価のため債権者を作業現場に案内し、製造中の製品の熔接部分を示したり、板金、製鑵作業に使用する工具、機械等を見せたりしながら、採用の場合に債権者が担当することになる作業内容を説明したうえで債権者にできそうか確かめたところ、債権者は「これなら自信がある」旨答えたため、高橋英司は採用できると判断し、右判断は北原を介して大橋総務部長に伝えられたことが認められる。債権者本人尋問の結果中には債権者は日興酸素在籍中の職種につき、酸素運搬の運転手をしていたと申告した旨の部分があるが、(証拠略)によれば、債権者には月一万円の経験加算給が支給されていたことが認められるところ、(証拠略)によれば、債務者会社では機械工などの経験工を中途採用する場合、通算同一職種従事期間から見習期間として二年を差し引き、端数月は六か月未満切捨て、七か月以上切上げとして一年につき月額一〇〇〇円の割合による経験加算給を慣行として給付することとしていたことが認められるから債務者会社は債権者の経験加算給の算定につき、鶴見工業(九年七か月)と日興酸素(二年七か月)を同一職種従事期間として取扱っていたものと推認され、もしも債権者のいうような申告が真実なされたとしたら右のような取扱いがなされることは不自然であり、債権者の右供述部分は措信し難い。また高橋英司から現場で採用後の作業内容等の説明をうけ自信の程を問われたことはなかった旨の債権者の供述は後記B(一)認定の事情に照らして措信し難い。

なお、(証拠略)によれば、製鑵と板金には厳密な区別はないものの、一般に、比較的厚い鋼材の熔断、熔接加工を製鑵、薄い鋼材の熔断、熔接加工を板金と言い、両者の作業手順に差異はなく、また精度、難易度にも差等はないことが認められ、右認定に反する(人証略)の証言は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして、以上の事実と後記B(一)認定の事実を併せ見れば、会社は債権者の提出した前記履歴書の記載と債権者の前記のような受け答えから債権者が熔接関係の仕事に一二年余の経験を有し、そのうち約一〇年に亘り鶴見工業で働いていたものと信じ、人物、技術とも十分な適格性を有するものと判断して昭和五二年一〇月三日債権者を採用したものと推認できる。

(二) 鶴見工業在籍に関する事実について

(1) (証拠略)によれば、債権者の兄高橋民也は、昭和三六年ころ鶴見工業の下請である畑瀬工業に入社して二年程で退社し、独立して鶴見工業の下請となったが、債権者は、中学校卒業後、昭和四〇年五月郷里から出て右民也の下請の仕事を手伝うようになり、昭和四二年三月一三日民也が有限会社たみや工業所(以下、たみや工業所という。)を設立してその名の下で鶴見工業の下請をするようになったため債権者もたみや工業所に入社し、昭和四九年一二月まで働いて退社し、郷里に帰ったものであって、たみや工業所設立の前後を通じて鶴見工業と債権者の間に雇用関係は存しなかったこと、鶴見工業は球形タンク等大型高圧容器の設計、製作、据付を中心とする製鑵メーカーで、業界ではその技術水準がトップクラスにあるものとしてよく知られていたが、同社の製作、据付作業においては、本工と下請(いわゆる社外工)の業務区分があり、技術的総括管理や高度な技能、資格を要する枢要部分の作業は専ら本工が分担しており、更に、下請でもその技術水準により分担範囲が決まっていて、たみや工業所は技術的には低いものとして、いわゆる製鑵というレベルに至らない目板、底板の切断作業や鋼材のロール作業を担当し、本体の熔接は勿論、附属品についても本熔接はさせられておらず、熔接に関しては、附属品の仮熔接のみをしていたことが認められる。(人証略)中右認定に反する部分は前掲証拠ならびに弁論の全趣旨に照らし採用できず、ほかに右認定を左右するに足る証拠はない。

(2) ところで、詐称と言い得るためには、申告時、申告者において事実が申告内容と異なることを認識していることを要するというべきであるから、次に、債権者が前記履歴書の提出時、自己が鶴見工業と雇用関係になかったことについての認識を有していたかにつき検討を加える。

(人証略)によれば、債権者は、昭和四〇年五月長兄高橋民也の鶴見工業の下請の仕事を手伝うことになって、同人に連れられて初めて鶴見工業に行った際、男沢総務部長と面会したが、同人より面接試験に類する質問や労働条件についての具体的な話は全くされなかったこと、働き初めてからも鶴見工業の研修などはなく、仕事は専ら民也から教えられ、また、賃金も鶴見工業から直接支給されたことはなく、終始民也から受け取っていたことが認められ、債権者は自己の使用者が鶴見工業でなく、兄民也ないしたみや工業所であることを容易に知り得る状況にあったものと認められる。

しかしながら、右各証拠によれば、債権者はいわゆる社外工として、専ら鶴見工業の指揮監督の下に同社の加工、組立等の作業に従事し、勤務時間等の労働条件でもいわゆる社内工と共通する面もあったこと、たみや工業所設立前は債権者と民也が労働契約を締結していた形跡はなく、債権者の地位は明確なものではなく、また民也自身鶴見工業との下請関係をはっきり意識していた訳ではなかったことがうかがわれ、前記認定のとおり債権者は中学校卒業後間もなく郷里から出てきて民也の下請の仕事を手伝うようになったものであることも考え併せれば、前記債権者の状況から直ちに債権者が当初より鶴見工業と雇用関係にはなかったことを認識していたと断定することはできない。

ただ、前記のとおり、民也は昭和四二年三月一三日たみや工業所を設立し債権者と一緒に働いていたのであるが、(証拠略)を総合すれば、債権者の次兄高橋信夫がたみや工業所を辞めて同年六月一〇日富士電機製造株式会社に入社する際、同人は民也に確かめたうえで、同社に提出する履歴書の職歴の記載を鶴見工業とはせず、たみや工業所としたこと、債権者はたみや工業所を辞める際、民也にその旨告げただけで鶴見工業には何ら届出ず、また鶴見工業に在籍していたとすれば受給できるはずの退職金を請求さえしていないことが認められ、前記のとおり債権者は昭和四九年一二月にたみや工業所を辞めたものであって、鶴見工業の下請をするようになってから九年七か月が経過していることも考え併せれば、既に債権者はたみや工業所退職の時点では、少なくともたみや工業所設立以降は自己が鶴見工業とは雇用関係になかったことを認識していたと優に認定し得るのであって、右認定に反する債権者本人尋問の結果は極めて不自然であって措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(3) 次に、債権者は、仮に債権者が形式上は鶴見工業に在籍した事実がなかったとしても、その申告の期間、鶴見工業の下請として、同社の指揮命令の下でその製鑵作業に従事していたのであるから、これを詐称とすることはできない旨主張する。

しかしながら、一般に、社内工と社外工では、採用基準や養成方法、担当職務等の相異から、資質に格差のあることは稀でなく、社外工の場合にも、その資質を推量するうえでは雇用者が誰であるかが重要視されるため中途採用の際の職歴の申告としては、雇用者が申告されることが期待されており、また、そのような申告がなされることが常であり、本件においても、前記(1)認定のとおり、債権者が鶴見工業の本工であったか下請であったかは技量上重要な意味を有していたものであって、債権者の右主張は採用できない。

(三) 債権者の日興酸素在籍期間は昭和五一年七月二六日から昭和五二年八月二五日までであり、昭和五〇年一月六日から昭和五一年六月一二日までの約一年半は宮古港湾に勤務していたものであって、この点について債権者の経歴詐称があったことは当事者間に争いがない。

また、その間の職種が宮古港湾では沿岸荷役作業であり、日興酸素では運転手であったことも当事者間に争いがないところ、債権者が、採用面接の際、会社に対し、この間の職種も熔接作業である旨申告したものと認められること前記のとおりであり、この点についても経歴詐称があったと認められる。

B  本件経歴詐称の評価

(一) 債権者採用の背景

(証拠略)をあわせれば次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

即ち、従来、会社では東京芝浦電気株式会社(以下、東芝という。)の設計、注文による半導体製造設備や管球製造設備の機械類の製造が売上げの大半を占めていたが、右設備の普及や集積回路の開発等の技術革新とオイルショックによる不況とが相俟って、昭和四八年暮ころを境に右東芝の発注は激減するに至り、以来会社の収支は大幅な赤字を続け、殊に機械課は最大の赤字部門となっていた。会社は、東芝からの受注の回復は望めないと見て、右事態の打解策として、自社商品を生産し、新規顧客を開発することが必至であるとしてその検討を進めてきたが、昭和五一年一一月ころに至り、ハロゲン式ガス洩れ試験機(リークテスター)の製造に将来性を認め、これに機械課の主力を注ぐとの方針を定めた。そして、右リークテスターの製造には、設計、加工における技術の蓄積が要求されるところから、そのための人材を確保する必要が生じ、設計部門のほか、製造部門においても一流ベテラン工を採用することとし、同月から翌昭和五二年二月にかけてプレナー工、電気配線電気設計工、仕上組立工、旋盤工を採用し、機械課を補強した。そして、板金工についても採用を予定していたが、一〇年程度の経験を有するものであることが必要であり、しかも将来リークテスターの現地据付、試運転のことを考えた場合、顧客工場の安全基準や就労規定に従って作業できる基礎教育を受けた人材であることが望ましく、中企業以上で経験を積んだ者を求めていたため、経験五年程度の入社希望者や監督しながら使う分には腕の立つ下請の従業員等の候補者はあったものの採用を控え、適当な人材が見付かるまでの間の凌ぎとして、下請業者から板金工を借り、会社の方で指導しながら作業させ、その後、昭和五二年九月ころ、リークテスターの当面の受注は低下したが、製造の体制固めのため、右板金工採用の方針を変えずにいた。

また、これと並行して余剰人員の整理も計画し、機械課を中心に配転、解雇、退職勧奨等による人員削減を行って、昭和五二年一月に一五六名だった会社の人員は、同年末には一三九名となり、更に翌五三年六月ころには、同年末までに一一〇名ないし一〇〇名まで減らす予定であった。

(二) 債権者の技量

(証拠略)によれば次の各事実が認められ、右認定に反する債権者本人尋問の結果はあいまいで不合理な点が多く、措信し難いし、(証拠略)に照らし措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 後加工でセーパー、フライス、旋盤等による切削加工の仕上げがなされるブラケット、フランジ等の熔接では、素材に歪みや反りが出ると、後加工で削り代がとれなくなったり、熔接部分が削り取られてしまう場合が生じ、また開先(接合部分の面とり)が十分でないときも、熔接部分が不足したり、なくなってしまう場合が生ずる。会社では、仕上図(切削加工後の形体を示し、切削面、非切削面の記号を付した図面)に基づき各工程での作業が行なわれるのが通常であるが、板金、製鑵の経験工であれば右図面から削り代を見込み、歪み、反りの許容範囲を判断したうえで、素材の平行度、直角度を保つために、一旦仮付けをした後、すじかい等の補強をして本付けをしたり、これで防ぎきれない場合には寸法に余裕のある板厚や幅を有する材料を使用したりすることになり、また、開先についても右図面から予想される削り代に応じて必要な深度を判断し、自らまたはセーパー工に頼むなどして適切な開先を取って熔接を行うことになる。債権者は、右図面から削り代を判断することができず、前記歪みや反りの防止手段を講じず、あるいは適切な開先を取らずに熔接を行うため、後加工で削り代が取れなかったり、熔接部分が不足し、またはなくなってしまうことが頻繁であった。

この他、一般に図面の読み取りや後工程の理解力が不足している。

(2) 素材の熔断については、熔断バーナの炎の色からする酸素量とアセチレン量の加減調整や熔断速度の調整が不適当で、素材に焼きが入って熔断面が硬くなり、セーパー加工後の後加工でバイトを激しく消耗するものにしてしまう。

(3) また、薄物の電気熔接については、板厚に応じて電流値の加減調整ができず、素材に穴があいたり、そり返ったりしてしまう。

(4) 連続熔接の場合に均一の肉盛りができず、また、熔接棒を継ぎ足す場合に、前の熔接棒の表面にたまったのろ(かす)をとらず、熔接部分に穴ができて気密もれを生じさせてしまう。

右のとおり、債権者には技術上の問題点が少なからずあり、その技量は通常の経験工の水準を下回るものであって、前記(一)に認定した事情の下で会社の期待した人材と著しくかけ離れていたものとみられる。

(三) 本件経歴詐称の影響について

(証拠略)によれば、債権者は採用後機械課に配属され、昭和五二年一〇月七日から一旦第一製造課に応援に出され、昭和五三年正月休み明けに機械課に復帰して板金、製鑵を担当し始めたが、債権者の加工品は、前記技量上の問題によって、後加工で困難が生じ、工数が増加して製造日程が遅れたり、商品の見場が悪くなって商品価値が落ちたりすることが多く、また不良品として処理しなければならない場合もあり、後工程からの苦情が相次いだ他、納品した製品にクレームがつけられたこともあったため、会社は機械課の青木茂職長等が債権者の作業につき再三注意指導を行い、昭和五三年五月ころからは薄物板金についてはほとんど外注に出すようにするとともに、同年七月ころまでの間、板金の経験のある青木三郎を組立係から板金にまわして債権者の指導にあたらせ、同年一〇月ころからは債権者には雑物や簡単なものの板金製鑵のみをさせるようになったものであり、それまでに債権者がなした作業不良の例は後記(1)ないし(5)のようなものであったことが認められ、右認定に反する債権者本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 昭和五三年四月東芝堀川町工場から受注したLLDマシンにつき、債権者は巻線スループカバーの板金加工を担当したが、熔接反りや合せ目のすき間を生じたため、その加工品は不良品として処理され、やむなく右板金加工は外注に出すことを余儀なくされ約三万円の損害が生じた。

(2) 同年四月東芝横須賀工場から受注した集魚灯バルブ加工旋盤のモータープーリー、ベルト等のカバーを現物に合わせて加工するよう指示されたが、展開図の作成ができず、加工に著しく時間がかかった。

(3) 同年六月、城北機業株式会社に納入したリークテスターの部品中、債権者が担当したワーク押工板の熔接不良により同年八月納入先からクレームがつき会社は一旦引き取って加工し直した。

(4) 同月、日平産業株式会社から受注したローダー式組立機械のフレーム熔接につき、事前に図面を読み取り、後工程担当者と打合せてボスやリブを取るのが通常であるところ、勝手に加工し、また、直角度、平行度も出していなかったため、ボスやリブの削り代がなくなり、後工程の横型ボーリング加工を著しく困難にした。

(5) 同年一〇月一八日、リークテスター重要部品につき、開先が十分でなく、これが後工程の旋盤加工で判明して、再熔接を指示された。

(四) 前記A項の事実と本項(一)の事実を併せ見れば、本件経歴詐称は、債権者の採否を決めるうえで重要な決め手となる事項につき、なされたものであって背信性の大きいものであり、また、本項(一)ないし(三)の各事実に照らせば、実際にも会社の業務に支障を生じさせたものというべきである。

C  そうすると、債権者には、少なくとも前記就業規則八八条四号に該当する事実があることになるところ、(証拠略)によれば、会社の就業規則八八条には懲戒解雇事由に該当する事実がある場合でも、情状により諭旨解雇とすることがある旨の定めがあることが認められるから、会社は諭旨解雇をもなしうるといわなければならない。

3  不当労働行為、公序良俗違反、解雇権濫用等の主張について

債権者は、本件解雇は債権者の会社内でのグループ活動を嫌悪、警戒してなされたものであって、不当労働行為または公序良俗違反であると主張し、仮にそうでないとしても、債権者の正当な行為を嫌悪、警戒してなされたものであって、権利濫用であると主張するので、この点について判断する。

(証拠略)をあわせれば、会社ではかねて就業規則により週休二日制が行われていたところ、昭和五一年から会社に土曜日の休日一部削減の動きがあったが、昭和五二年二月二日入社した宮越(婚姻前の姓宮崎)節子は右休日削減に反対の意見を有し、会社の労働組合を労働者の利益に反する右会社の方針に協力するものと考えて疑問視し、組合本来のあり方を考える目的でグループを結成し、同年九月一八日から学習会を開始し、債権者も入社後間もなく右グループに参加するようになったこと、右グループは、休日削減問題についても話し合い、これを労働基準監督署に申告することを決め、同年一一月一二日右宮越とグループ員西浦重泰が川崎南労働基準監督署に申告したため、同署の会社への立入調査が行われ、結局、第一回として予定されていた同月一九日の休日削減は見送られたこと、そのころ、職場の声を組合に反映させる目的で右宮越、権平松男らのグループ員は職場委員となり、翌昭和五三年三月一三日債権者も職場委員となり、その後、職場の交流を深める目的でソフトボール大会等サークル活動を行ったこと、同年初頭に再び同年中の休日削減が会社から発表されていたが、右グループで対応を話し合った結果、矢張り労働基準監督署に申告することになり、同年七月二七日、今度は右宮越一人で申告したこと、同月二九日右休日削減は実施されたが、右宮越、債権者らグループ員四名は欠勤したこと、同年九月五日右宮越は解雇されたが、同人は右解雇は労働基準監督署へ申告したためになされたとして、会社に対し解雇の撤回を求める活動を行い、債権者は会社への立入を阻止されている右宮越に内部の状況を伝えたり、右宮越のビラを会社の寮内で配るなどしてその活動に協力し、また同年一〇月三一日に結成された右宮越を支援する会にも参加したこと、以上の各事実が認められ、右認定を覆えすに足りる事情はない。

しかしながら、右グループ活動が組合活動ないし団体行動権の行使に該当するか否かは一応措くとして、右グループの活動形態を見ると、外部的には個々人としての活動が認められるのみで団体としての行動がなされた形跡はないし、会社が特に右グループの存在を察知したと認めるに足りる証拠はなく(債権者本人尋問の結果中には、権平松男が電話で債権者に、昭和五三年七月ころ会社の幹部に呼び出されてグループ員の名を明してしまったと話した旨の供述があるが、右供述は不合理な点が多く、措信できない。)、かえって、(証拠略)によれば、右グループは終始数名のグループであったが、グループ員は、グループの存在が会社に知られると活動を妨害されるおそれがあると考え、勉強会への勧誘も二、三人の真剣に問題を考える者に限定するなどしてグループが公然化することを避けていたため会社はその存在を知らなかったことが認められ、本件解雇が右グループの活動を嫌悪、警戒してなされたものと認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、債権者の不当労働行為及び公序良俗違反の主張はいずれも採用できない。

そこで、次に、債権者の活動として外部に現われた行為についてみると、右認定事実のうち、昭和五三年三月一三日職場委員となってその後職場のサークル活動の企画、実施を行なったこと、同年七月二九日の休日削減に欠勤したこと、いわゆる立ち番を拒否したこと、宮越の解雇撤回活動に、会社での状況を伝えたり、ビラを寮内で配るなどして協力し、支援団体にも参加したことがこれに該るが、仮にこれらが全て会社の認識するところであり、本件解雇の動機に何ほどかの影響を及ぼしたとしても、前記三2に認定した解雇事由の重大性に照らせば、本件解雇を権利濫用とする債権者の主張も採用できない。

4  そうすると、本件解雇の意思表示は昭和五四年一月五日限り効力を生じたといわなければならない。

四  未払賃金の有無

賃金の額、支給方法は当事者間に争いがなく、会社は解雇までの賃金を昭和五四年一月五日に債権者に提供し受領拒絶により供託したことも当事者間に争いがない。

そうすると、すでに未払分はないということができる。

五  以上のとおりであるから、本件仮処分申請は被保全権利について疎明がないというべきであり、保証を立てさせて疎明にかえることも相当でないから、本件申請をいずれも却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小笠原昭夫 裁判官 小田原満知子 裁判官 川添利賢)

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